座布団の美
昔ながらの日本家屋では、夏の間は涼をとるための建具や敷物をあつらえ、秋口にはそれらを片付けます。「葭戸蔵う」「簟(たかむしろ)の別れ」などといい夏の建具を片付けると、しまい込んでいた襖や障子を出して取り付けます。
現代の住宅では建具を変えることはなかなかありませんが、インテリアアイテムを変えて季節の変化を演出することはあります。ソファのクッションや座布団カバーを変えたりするのもその一つ。その際にクッションはいいのですが、座布団は縦横比が微妙に違うため、どっちが縦か横なのか、しつらえに不慣れな私はいつも迷ってしまいます。
座布団は正座になった時のことを考えて、足がきれいに収まるよう縦が3〜4cmほど長くなっていますが、その置き方にも意味があります。
縫い目の無い部分を正面(膝の方)になるよう置くのですが、それは向き合って座った時に、線(縫い目)を引かないということで、「相手とのご縁を繋ぐ」という意味があります。
ほんの少しの縦横差、縫い目の位置まで意味があり、美しさと細やかな心遣いが座布団に内包されています。日本の文化が非常に精神性が高いといわれる理由の片鱗が、この何気ない日用品にも見られます。
最近は縦横が気にならない正方形の座布団も多く見られるようになりました。
これ(座布団の縦横の差)はいわば先祖の残した美しさである。日常生活の道具でしかない座布団にも、一寸という幽かなところで、美しさをださないではおかなかった先祖たちなのである。(中略)ただ、時世がかわるとか、様式がうつるとかいう大きなことは、こうした座布団の寸法、縦横、といったごく小さい美しさから、崩れ失われていくのだろうか、と考えさせられるのである。
幸田文「秋ぐちに(1962年)」より