陶芸家・今西 (1)

年の瀬が近づき慌ただしくなる12月19日、夢前町は色あせた山に見渡す田んぼの稲は全て刈り取られ、枯れ草色の風景が広がっている。侘しく人気のない田んぼの真ん中に二人の男が立っ ていた。今西と飯塚である。

冷たく乾いた空気が頬をかすめ、今西は白い息を吐いた。田んぼには刈り取られた酒米の稲藁(いなわら)が積み上げられている。この稲藁を灰にして酒器の釉薬(ゆうやく)の材料とするのだ。この日、今西は稲藁の焼き方を飯塚に教えに来たのである。

田んぼの端には飯塚が用意したトタンが広げられている。その上に藁を積み上げて火を点ける と、乾燥した藁はたちまち白い煙を吐きながら燃え出した。そこへ今西が次々と藁をくべていく。藁は燃やしすぎると釉薬としては使えない。微妙な焼き加減を見極めなければならないのだ。

「こんなもんなぁ、焼いたろー! って思って気合入れてやると燃えすぎてオイシイところが全 部飛んでまうねん。暇つぶしに笑いながら焼くくらいが一番ええ灰になるんや。」

そう言いながら上機嫌にどんどん藁を燃やしていく今西。そこへ、笑いの神が今西めがけて一 陣の風を巻き起こした。風とともに炎が彼の手元を襲う。

瞬間、手と足を引っ込めて妙なポーズをとる今西。オイシイところを逃さない陶芸家である。

炎を手に受けながらも、今西は釉薬の藁灰作りを飯塚に伝授することができた。単純な作業で
あるが、田んぼ一面に積んである大量の藁を全て焼くとなると重労働である。飯塚は田んぼの稲藁を全て灰にして1月中頃までに今西の元へ届けると約束した。

(続く)

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