春のジャガイモ / その2

ばんごんじんじいのじゃがいも畑
昔、ジャガイモはヨーロッパで「悪魔の植物」と呼ばれていました。

ジャガイモの故郷は、南アメリカ大陸のアンデス高地(中央アンデス、現在のペルーからボリビアを走る山岳地帯)だと言われています。1532年にインカ帝国がスペイン人に滅ぼされるまで、アンデス文明を支えた重要な作物でした。

16世紀にスペインに渡ったジャガイモは、冷涼な気候を好み、フランス、イギリス、ドイツなどヨーロッパ北部に広がっていきます(もう1つ、コロンブスがアメリカ大陸から持ち帰ったトウモロコシは温暖な気候を好み、イタリア、ギリシャなどヨーロッパ南部に広がっていきます)。新大陸からジャガイモとトウモロコシを手に入れたヨーロッパでは人口が大幅に増えていきます。

当初、キリスト教圏では、聖書に記載されていない作物であり、種ではなくイモで増え、また、伸びた芽や緑化したイモに毒性があることなどから「悪魔の植物」と呼ばれ偏見があったようです。パリでは下層階級の人々の食べ物と蔑まれていた時代もありました。

日本では江戸時代に大飢饉が起こり、その救荒作物として全国に広がったそうですが、ヨーロッパでも戦争や飢饉が起こり、その度に栽培が広がっていったようです。そして「悪魔の植物」は主食へと変わっていきました。

早くからジャガイモを主食にしていたアイルランドでは、1845年にイギリスで発生したジャガイモの病気が大流行しました。単一の品種を栽培していたために収穫の9割が腐り、 大飢饉が起こったそうです。結果として人々は新天地を求めて、カナダやアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどを目指すことになりました。人口の移動の理由にもなったジャガイモは、現在では世界各地で栽培され、小麦、トウモロコシ、稲についで、栽培面積世界第4位を占める重要な作物になっています。

ジャガイモの収穫(19世紀・フランス)

アンデスの先住民族アイマラ族は『貧乏な人とは少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくら物があっても満足しない人のことだ』と言葉を残しています。 以前、南米を旅した友人が「ラテンアメリカの人たちはちゃんと世界をよく見ている」と言っていました。なぜそう感じたか、その理由は忘れてしまいましたが「自分も世界をよく知ろうとしなければ」と思います。

周辺の田んぼでは青麦が風に吹かれて、畦のシロツメクサもほのかに香っています。ジャガイモの生育適温は15~24℃で、今の時期グングン大きくなります。今、育てているジャガイモもインカ帝国で食べられていたものの末裔かと思うと、草を引きながら『♪コンドルは飛んでいく』が頭の中を流れ、アンデスの乾いた空気と紫外線の強さを想像しながら鍬を持つ手に力が入ります。

参考&おすすめ&読んでみたい図書

『ジャガイモのきた道-文明・飢饉・戦争』 山本紀夫著 岩波新書

『世界でいちばん貧しい大統領からきみへ』 くさばよしみ編 汐文社

『インカの食卓』 高野潤著 平凡社

〈著者〉
有機農園ばんごんじんじい
代表 / 神﨑一馬

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