七郎兵衛ショウガ / その1

「どのようなことも7世代先のことを考えて決めなければならない。」

これはアメリカ先住民族の言葉です。彼らが1世代を何年として考えていたのかは分かりませんが、仮に1世代30年で考えると、7世代先は210年先、それぐらい先の人たちのことを考えて物事を判断せよ、と。

 今年は早く桜が咲いたので、夏野菜の種まきや植え付けも早くできるかとソワソワしていましたが、結局、朝晩の冷え込みが続き、例年と変わらない時期にショウガを植えました。

 熱帯アジアが故郷のショウガの栽培には、高い気温と充分な水が必要です。うちの畑では5月に種ショウガを植え付けて10月に収穫します。水やりや草引き、土寄せなど管理の手間もさることながら、真夏の日照りや台風など、なかなか神経を使う作物です。

 ショウガの栽培には水が欠かせませんが、特にショウガの肥大期になる7~9月の水やりは大事です。ところが、地域(注:ばんごんじんじいの畑は兵庫県香寺町)は8月に日照りが続くことが多い瀬戸内気候に含まれます(近年は早い時期に台風が来たり、大雨になることもあったりしますが)。瀬戸内地域の特徴として「ため池」がありますが、私たちの集落の水源も基本的にため池です。

 うちの畑の上には、今から約360年前に村民の七郎兵衛(しちろべい)さんが築造したというため池があります。周囲約330m、面積約6700㎡のこのため池は、江戸時代(1658~1661年)に水不足で村人が困っていたところ、七郎兵衛さんが私財を投じ集落の高台に池を造成、その後水不足が解消したと伝わっています。360年経った今も、この池のおかげで私たちの集落は田に水を張り、畑に水をやることができます。

 集落の歴史は、鎌倉時代までさかのぼることができるそうですが、ため池だけでなく、田畑や宅地、水路など、先人が山や荒れ地を一生懸命開墾して造ってきたものです。そんな先人の日々の営みの枝葉の先っぽで、僕が今、畑を使わせてもらっています。うちの畑が有機栽培だ何だと言っても、それは先人の大変な苦労の先にちょっとだけ間借りしているだけです。

7世代以上先の人間も使うことができる池をつくった七郎兵衛さん。その池の水を使わせてもらっているので、うちの畑で収穫したショウガは、「七郎兵衛ショウガ」と名前をつけています。なるほど人間の仕事とはそういうものかと思い、自分も7世代先の人たちに作物の種が残せたらいいなと夢想しています。

それから、集落のため池にはカワセミが生息しています。たまに出会うことができますが、羽が日の光を浴びてとても綺麗な瑠璃色に反射します。あんなに綺麗な鳥を見ることができるのも池のおかげです。

参考&おすすめ&読んでみたい図書

『ガリ屋がまとめた生姜のはなし』 遠藤榮、遠藤栄一著 創元社

『空海の風景』 司馬遼太郎著 中公文庫

『うかたま 2018秋 vol.52』 農山漁村文化協会

〈著者〉
有機農園ばんごんじんじい
代表 / 神﨑一馬

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