春のジャガイモ / その1

「春のジャガイモは、おたいっさんの日に植えろ」と地元では言われています。

「おたいっさん」とは、聖徳太子にゆかりのある近くのお寺で、命日(2月22日)に行われる例祭のことで「お太子さん」の名前で親しまれています。

2月22日が近づくと、近所の畑ではジャガイモを植える準備が始まります。そして「おたいっさん」を挟んで前後2日ほどの間に、多くの人がジャガイモを植えていきます。まだまだ寒い日が続き、せっかく出てきた芽も霜にあたって枯れてしまうこともあるのですが、皆さんいそいそと植えていきます。周りの畑にジャガイモが植わり、「えっ、うち、遅れてる!?」と、これも毎年焦りながら、うちでは3月に畑の準備をして植えていきます。

なぜ「おたいっさんの日」なのでしょうか?地元の長老に聞いても明確な答えは返ってきません。推測なのですが、1つなるほどそうかなと思う答えがあって、それは「田植えに間に合うように」でした。ジャガイモの生育には3か月ほどかかります。2月22日に植えたジャガイモは5月の終わりに収穫できます。その後、田に水を張って6月の田植えに間に合うように、2月22日がジャガイモを栽培するギリギリのラインだったのではないでしょうか。

日本にジャガイモが伝わったのは、戦国時代末期と言われています。アジア各地で貿易を行っていたオランダ船から長崎に伝わったそうです(当時、貿易の拠点があった今のインドネシア・ジャカルタがジャガタラと呼ばれていて、ジャガタライモがジャガイモになったとか)。江戸時代になり寛永、享保、天明、天保と大きな飢饉に見舞われます。これらの大凶作の度に、ジャガイモは救荒作物として日本全国に広まっていったそうです。

 太平洋戦争中や戦後、食糧が無かった時代「ジャガイモが採れた言うたら、そればっかり食べとった。今みたいに何でもあるんちゃうもんな」と長老。たまたま運よく「飽食」と呼ばれるような時代や社会を生きている僕たちが大飢饉を想像するのは難しいですが、ジャガイモの育て方くらいは知っておかないと、と思います。

 あと「おたいっさんの日」にジャガイモを植え損なうと、その後、春雨前線の影響で天候が安定せず、ジャガイモを植える機会をついつい逃していくという経験をしたことがあります。「やっぱり、おたいっさんの日か!」と。来年こそ「おたいっさんの日」にきっちりジャガイモを植えるようにしようと、この文章を書いていて強く思いました。

参考&おすすめ&読んでみたい図書

『そだててあそぼう ジャガイモの絵本』農文協

『バガボンド 35~37巻』 井上雄彦著 講談社
剣の道に生きる武蔵が飢饉を救うために寒村の田を開梱する、バガボンド「農耕編」

〈著者〉
有機農園ばんごんじんじい
代表 / 神﨑一馬

※神﨑氏の地元である兵庫県姫路市香寺町は、聖徳太子ゆかりの地。町内にある聖徳山圓覚寺のあたりに七堂伽藍が建立されたと伝えられ、太子堂遺跡は県の史跡に指定されています。明治十六年、聖徳太子の威徳を偲んで再建された太子堂内で、毎年聖徳太子命日である2月22日に聖徳太子例祭(おたいっさん)が行われます。近郷の曹洞宗派寺院僧侶による般若心経600巻の転読供養法要を中心に景品があたる福引等を行う祭りで、当地に暖かい春を呼ぶ行事として親しまれています。

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