大橋のり〈海苔の加工〉

冬、淡路島の五色浜で漁をする大橋水産では、海苔の生産に忙しい日々を送っている。

10月から始まった海苔の養殖は、12月末頃に1回目の収穫が行われる。船いっぱいに収穫した海苔は、港からホースを通って工場の攪拌器に集められていた。

収穫した海苔には海藻など不要なものが付着しているため、まずはきれいに洗ってゴミを取り除く。洗い終わった海苔は機械で細かく刻んで、熟成させる。

その後、1枚当たりの重さが3.20〜3.60gになるように海苔を調合する。海苔はその時々で水分の含有量が異なるため、30分置きに海苔を乾燥機にかけて重量を計測し、均一になるよう調整するのだ。

調合された海苔は、和紙のように簾(す)の上に四角形に抄き上げる。そのまま脱水、乾燥した後に、簾からはがされて板海苔が出来上がる。出来上がった海苔は破れたり穴があるものを取り除き、さらに目視で検品していく。10枚分(1帖)を10帖重ね1束にして、完成となる。こうして海苔は出荷されていくのだ。

攪拌器に入れられた海苔が板海苔になるまでおよそ4時間半。この一連の工程を何度かに分けて、収穫した全量を海苔の鮮度が良いうちに一気に板海苔に加工していく。全ての加工が終わるまで約3日。この間、機械は24時間稼働させて、漁師は交代で加工作業をする。それぞれの機械を調整しながら30分おきに海苔の水分量を検査し、出来上がった海苔を確認しながら梱包作業まで行うため、休む暇も睡眠時間もなかなかとれない。

それでも、加工作業の方がまだ体が楽だと宏樹さんは言う。それほど海上での作業は体力的にも精神的にも厳しいのだ。

「美味いな!」海苔の出来に満足げな宏樹さん

海苔の収穫期は12月末から3月まで。漁師は早朝に海苔を収穫しては、3日間交代で加工作業をすることを繰り返す。こうして海苔は出荷され、お店に並び、私たちの手元までやってくるのだ。

大橋水産は、海苔の生産期間である10月から翌年3月まで休日はない。正月も休むことなく仕事をする。海と海苔、自然を相手にする仕事ゆえに、人間の都合のいいようにはいかないからだ。唯一荒天の日は休みとなるが、それはそれで海の養殖場の様子が気になって仕方がない。秋から春にかけては一時足りとも気が抜けないのだ。

海苔の収穫は7回〜10回ほど行うが、一番最初に収穫したものを「一番摘み」という。一番摘みは柔らかく香り高いのが特長だ。とりわけ五色浜の穏やかな海で育てられる海苔は上品な風味がある。大橋水産ではこの一番摘みのみを使用した味付け海苔「大橋のり」を販売している。美味しいと地元で評判の海苔は一般市場にはほとんど出回っていないが、近年では徐々に県外のファンが増え、知る人ぞ知る人気商品となっている。

大橋水産はこれまで淡路島の海苔品評会で何度も入賞をしている。実力派の海苔は香り高く上品な味わいがあり、地元で愛され続けている。

そんな海苔を五色浜で何十年も作り続けてきた大橋まり子さんは笑いながらこう言った。

「海苔何年やっても一年生よ。」

大橋まり子さんと純子さん母娘。二人とも今では数少ない女性漁師として活躍している。
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