蔓性の落葉灌木で、十数メートルの高さに登るものもあります。紫色をした花序の枝垂れる様は、花咲き誇る華やかな春の終わりを締めくくるにふさわしい、晩春を象徴する花です。

優艶なその花姿に対して、幸田露伴は「これの秋咲くものならぬこそ幸なれ」と言います。

風冷えて鐘の音も清み渡る江村の秋の夕など、雲漏る薄き日ざしに此花の咲くものならんには、我必ずや其蔭に倒れ伏して死(しに)もすべし。虻の声は天地の活気を語り、風の温く軟(やはらか)きが袂軽き衣を吹き皺めて、人々の魂魄(たましひ)を快き睡りの郷に誘はんとする時にだも、此花を見れば我が心は天にもつかず地にもつかぬ空に漂ひて、物を思ふにも無く思はぬにも無き境に遊ぶなり。

幸田露伴「花のいろ/\」より

藤の花には、別世界に誘い込むようなある種特異な時と場を作り出す、そんな性質があるのかもしれません。

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