蕗と癖
初夏の頃の蕗は、葉柄(ようへい)を地面からすっと伸ばして傘のような丸い柔らかな葉を広げています。葉柄も葉もどちらも食用となり、葉柄は煮物に、葉は蕗の葉味噌などにして食べると美味。香り高くほろ苦い風味が好まれています。
蕗はアク抜きが大変というイメージがあります。「時短」がもてはやされている現代では、蕗に限らずゴボウや里芋なども、スーパーでは下処理した水煮状態で並んでおり、またよく売れているようです。
作家の幸田文は、日本料理家の辻嘉一との対談から山菜の滋味についてこう記しています。
山のもの野のものの中には、したたかな癖をもつものがあって、あくを抜くのに手古摺った経験は、みなさんご存知のことと思います。その手ごわさをうまみといい、さらに滋味とまでいってやるやさしさに、「これこそこの方(辻嘉一)の心情だ」と思い、なんだかこう鬱屈していた気が晴々とし、私はやたらと嬉しくなりました。(中略)癖を憎み、嫌ったのでは滋味という結論はでてきません。癖を惜しみ、いたわり、介抱してやった上で、はじめてこの言葉があったと思います。
幸田文 「滋味」より
自分の手でアク抜きを施して料理をすると、その食材に対してまた新しい見方ができるかもしれません。面倒だと思われている癖の強い食材達から教わることは案外多いようです。