蚊帳

蚊帳(かや)は夏の夜、虫を避けながら涼をとるために、建具を取り外して開放した室内に吊るす帳(とばり)のことです。
蚊帳が日本で初めて登場するのは、日本最古の地誌「播磨国風土記」です。播磨(兵庫県南西部)を代表する山・雪彦山の麓に応神天皇(第15代天皇)が訪れ、そこで蚊帳を張ったとの記述があります。そのことから、この地域を賀野(かや)と呼ぶようになりました。

昔の蚊帳は高級品で、上流階級でしか使われませんでしたが、江戸時代頃より徐々に庶民にも使われるようになっていきます。明治時代には安価な木綿素材の蚊帳ができたことで需要が一気に拡大。クーラーが普及する以前は日本の夏の風物詩となるほど一般に広く使われていました。

歌人であり医師でもあった斎藤茂吉も、夏の夜の情景を歌に残しています。

蚊帳のなかに 放ちし蛍 夕されば
おのれ光りて 飛びそめにけり

斎藤茂吉

暗がりの中に吊るされた蚊帳、その中にほんのり灯るあかりと人影。かつて蚊帳は、夏の夜に美しい情景を生み出していました。

高密度断熱材でがっちり守られた現在の家では、取り外す建具もなく、隙間風の入る余地もありません。昔と比べて気温も高くなり、特に都会ではクーラーは欠かせません。蚊帳の出番はとうになくなってしまいましたが、その風情ある佇まいや環境や体調の配慮から、今、蚊帳が見直されています。

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