酒の秋

酒の中にも秋はひそんでゐる。夏の間は、ビールで誤魔化してゐたものの、すでにあの紙よりも薄い小さな杯のみが私の手にはふさはしくなるのである。久しく忘られてゐた酒の味が、新しく蘇る。この酒の味に接して、始めて秋を新しい季節だと感ずるのである。

堀口大學「仲秋随筆」より

お彼岸が終わり、暑さがようやく過ぎ去ると、自然のどを潤すビールよりも香りと旨みを楽しめる日本酒に手が伸びます。

夏は夜でもなんとなく活気があり、食事も精のつく勢いのあるものや喉越しの良いものが欲しくなり、合わせるお酒も炭酸がきいてキンと冷え、ごくごく飲めるものがよさそうです。
一変、 秋になると夜はぐっと落ち着きを取り戻し、食事においてもゆっくりと秋の味覚を味わいたくなります。合わせるお酒も、食を引き立たせるものや香りの良いものをじっくりと、といった心持ちになります。

虫の声、空、花や草で私たちは秋を感じたりしますが、お酒にも季節の気配はひそんでいます。

白玉の歯にしみとほる秋の夜の
酒はしづかに飲むべかりけり

若山牧水

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