春と秋、どっちが好き?

川合玉堂/日光裏見滝

万葉集の第一巻には、春と秋のどちらが趣があるかを漢詩で競った宴の様子が記されています。
春と秋、それぞれにいくつもの漢詩が詠まれた後、天皇はその場にいた額田王に「どちらが趣があったか?」と尋ねます。その時、額田王が返答として詠んだ歌は次のようなものでした。

冬ごもり 春さり来れば
鳴かざりし 鳥も来鳴きぬ
咲かざりし 花も咲けれど
山を茂み 入りても取らず
草深み 取りても見ず

秋山の 木の葉を見ては
黄葉(もみじ)をば 取りてそ偲ふ 
青きをば 置きてそ歎く 
そこし恨めし
 
秋山われは

訳)
冬が終わり春になると鳥は鳴き花は咲き誇ります。しかし山は生い茂っているため、分入って美しい花や草を手にとって見ることはできません。
秋の山では色づいた木の葉を手にとって見ることができます。いまだ青い葉を見ると、紅葉したらどんなに美しいだろうと悔やまれます。
私は秋が好きです。

この宴が行われたのが秋だったため、額田王は秋に軍配を上げたのではないか、など色々な説が言われています。このような春と秋の優劣を競い合う雅な行事は幾度となく行われてきました。優劣の根拠となるセンスある説得性と言葉選びが勝敗を決めそうです。

あなたなら、どんな理由でどちらを選びますか?

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