雨(あま)つつみ

昔は田植前の長雨の頃、田の神様をお迎えするために禁欲生活をする習慣がありました。物忌みをして豊作を祈願したその時期を「雨つつみ(あまつつみ)」と言います。

禁欲生活のさなか、男女が逢えない辛さや満たされない思いなどを憂いつつ、ぼんやりと外の景色を「眺め」る、この言葉は「長雨」からきているとも言われています。「雨つつみ」という神事が、季節と情感を繋いでいます。

このあいまいで艶のある空気感は、神事がなくなった今でも日本人の感傷に生きているようです。

(五月雨の時期になると)燈火の光りも美しくなって来る。一寸町を歩いても湿やかに細やかな雨が音もなく降り注ぐ中を、蛇の目傘を翳して、素足に高い足駄を穿いて行く女──その後姿に云い難い風情がある。その物の持った柔らかな線と、周囲のしめやかな空気とが調和して、其所に口では些(ちょ)っと云い難い深い趣が味われる。

窪田空穂「五月雨頃の情緒」より

物憂げな灰色の季節の裏には、色と艶が隠されています。

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