漁師の謎ワード
淡路島の漁師さんと話をしていた時のこと。明日は漁に行くのか尋ねると、次のような返事がかえってきた。
「どうやろなぁ。まぜ吹きよっからなぁ。」
(……まぜ??)
生活から生まれた独自の言葉があります。「まぜ」とは南風のことで、淡路島(五色浜)の漁師達は皆一様にこう呼ぶそうです。地方によって呼び方は異なり「みなみ」「はえ」「「はや」「はい」「まじ」等、南風を表す言葉はたくさんありますが、ほとんどが漁師が使う漁師言葉。瀬戸内海では「まじ」「まぜ」を使うことが多いようです。
風の方向や強弱や温度・湿度その他の性質について、いちばん敏感なのは、帆船に乗る船乗りであり、その次に漁師である。(中略)内陸に住む人たちに比べて、始終舟に乗っていれば、いやでも風の性質の微細な差異に至るまで敏感に感じ分けざるをえない。そしてそれに、一々名前をつけている。名称そのものが、生活に密着したもので、伊達や風流でつけられたものではない。
(山本健吉「南風」より)
現代の自然から離れた生活では、そもそも風向きを話題にすること自体があまりありません。しかしながら、時には命を落とすこともある海で仕事をする漁師にとっては、風の判別は必須能力。風を表す言葉が現代でも漁師の間に残っているのは、日常に使う「生きた言葉」だからでしょう。
「まぜ」を教えてくれた漁師さんは、当たり前のように風を読み取って船を操っているのかと思うと、プロの仕事は凄いものだと頭が下がります。