カラスの子

淡路島の西海岸、5月の初め頃のこと。カラス夫婦が背の高いもみの木のてっぺん辺りに巣を作りました。しばらくすると木の上から朝晩「ぐえっ、ぐえっ」と声がするように。雛が生まれたようです。親ガラス達は、来る日も来る日も畑に降り立っては餌を探し、木の周りを警戒するように見回っていました。一ヶ月経った頃、ある日を境に親鳥の姿を見ることはなくなりました。朝な夕なにグエグエ鳴いていた小ガラス達の声も聞こえません。どうやら子育てが終わり、巣立ったようです。

「鴉に反哺(はんぽ)の孝あり」という言葉があります。子ガラスは親に養われた恩を感じ大きくなったら親鳥に餌を返す、ということから、鳥でも恩を忘れないのだから、人であればなおさら親孝行しなければならない、という意味です。

仏壇もお墓も失われつつある現代の生活では、意識していないと、うっかり「恩」を忘れそうになってしまいます。島の小ガラス達が今頃どこかで親孝行をしているかどうかはわかりませんが、「反哺の孝あり」に親の恩、先祖の恩を忘れていやしないかと、問われているようです。

代々の営みの上に今がある。一見シンプルなようでいて大変な事実をいつも忘れないよう、恩を胸に留め置きたいと思います。

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