芙蓉の風

夏の終わりから秋にかけて咲く芙蓉の花。淡紅色のやわらかな花びらは楚々として美しく、古来より美女に例えられてきました。一晩で咲き落ちる性質から美しさの中の儚さも感じさせます。

明治生まれの歌人、山川登美子は旧家に生まれた才女で、当時一世を風靡した雑誌「明星」で、親友の与謝野晶子と共に歌人として活躍しました。きらびやかで激しい情熱を歌う感情的な与謝野晶子に対して、登美子は理性的で遠回しに思いを表現する控えめなタイプ。性格の違う二人は、同じ男性(与謝野鉄幹)に恋をします。

理性的な作風の登美子が鉄幹に対して詠んだ芙蓉の歌は、彼女の激しい一面を表したものでした。

わが息を 芙蓉の風にたとへますな
十三絃を ひと息に切る

訳)
私のことを芙蓉をなびかせるようななよなよとした風のように思わないでください。私の心には琴の弦13本を一気に断ち切るほどの激しさがあるのです。

周りから芙蓉の風のごとくなよやかな女性に見られながら、それをきっぱりと否定した登美子は、29歳の若さでこの世を去ります。儚い生でしたが、その一生は決して弱いものではなかったと思います。

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