手抜きと品格

水野年方 /三井好 都のにしき 隣の子

12月8日は事納めとして、一年の仕事を片付ける日でしたが、今日2月8日は「事始めの日」。一年の仕事、とりわけ農作業の準備を始める日とされてきました。
また、2月8日は針供養の日でもあります。昔は針仕事は日常的な家事の一つでした。家族の着物の仕立ては女性の仕事。器用であろうが不器用であろうが、女性は針仕事ができて一人前でした。

明治生まれの作家・幸田文は針仕事が苦手だった若い頃、裁縫を習いに行っていたそうです。ある日、裁縫の先生から「手抜きをした早仕立ては誰もがやりたくなるが、自分の身のためにはならない。」というようなことを言われて頭が上がらなかったと言います。そんな裁縫の先生の言葉と同じようなことを、父親である幸田露伴も口にしていたそうです。

「毎日の暮しのうちには、そういう間に合わせの才覚も必要だし、それはそれなりに一種の能力ともいっていえないこともないが、およそ能力、技術、心ざまにはすべて、曲直もあれば、品格の上下も自然と現れる。(手抜きをするような)愚劣なことで、なにも自分の品格をいやしくすることはないじゃないか。」

(「季節のかたみ」より)

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