秋深し
秋という季節には、どことなく寂しさや孤独感がつきまといます。秋が深まり肌寒くなってくると寂寥感はいっそうつのるようです。
「秋深し」という言葉は、単に時間経過による季節の変化だけを表すのではなく、「秋」と「寂寥感」という自然と感情をセットにした言葉です。「秋深し」は古くから和歌でも度々詠まれてきました。
秋ふけぬ なけや霜夜のきりぎりす
ややかげ寒し 蓬生(よもぎふ)の月
(後鳥羽院)
秋ふかき 淡路の島のありあけに
かたぶく月をおくる浦風
(慈円)
どちらも鎌倉時代に編纂された新古今和歌集の歌です。秋の景色を写しながら、その情景にはうら寂しさが含まれています。
江戸時代になると、松尾芭蕉が「秋深し」の一つの到達点となる句を詠みます。
秋深き 隣は何をする人ぞ
(芭蕉)
「秋」と「寂寥」が隣家と我が宿にひっそりと立ち込めて、それ以上でも以下でもない。
自然と感情を含む「秋深し」の真髄を教えてくれる有名な句です。