鹿の角が短い季節
鹿の角は雄にだけ生えており、一年で生え変わります。春に古い角が落ち、夏にかけて新しい角が生え、秋には完成します。秋は鹿の発情期。出来上がった立派な角で雌にアピールしたり、ライバルの雄と戦ったりするのです。年齢や体の大きさによって角の大きさも枝分かれの数も異なります。
今の時期はちょうど「袋角」と呼ばれる丸く柔らかい角が出てくる頃。昔の人は初夏の角の変わり様を見て、和歌を作りました。
夏の行く牡鹿の角の束の間も
妹が心を忘れて思へや
柿本人麻呂(万葉集)
夏野を行く牡鹿の短い角、その短い角と同じようにほんの束の間もあなたのことを忘れることはあったでしょうか
初夏になると鹿の角が短くなるのは当たり前に知ってる、という大前提のもとでの恋の歌。あまりにも自然から遠ざかってしまった私達。
過去への回帰を求めるわけではなく、むしろ現代の暮らしをもっともっと楽しみたいと思う気持ちはあるけれど、自然から遠くなってしまったあまり、自然に生かされていることを忘れていやしないかと、鹿の角の歌にはっと気付かされます。